日本人に最もなじみのある昆虫食・イナゴは、見た目も味も実に平和なのだが、
イナゴディナーが登場する〝あの漫画″が、どの作品よりも、怖い!
“あのマンガ”とは、広島の原爆体験を描いた『はだしのゲン』だ。
1973年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が始まった『はだしのゲン』(中沢啓治)は、
戦中戦後の広島を少年が生き抜いていくという物語で、作者の実体験がベースになっている。
“ありのままに描こうと思っていたがあまりにも凄まじくなるので表現を抑えた”とのことなのだが……
いやいやいや、子どもにとっては十分すぎるほど恐ろしかったわ!
『はだじのゲン』に登場するのは、熱線と放射線によって街が一瞬して崩れ落ち、
ある人は全身の皮をズルズル引きずりながら、
またある人は全身にガラスの破片を突き刺さしたハリネズミのような姿になりながら町を徘徊するという地獄絵図。
戦争によってもたらされた悲劇は、“怖い”という言葉だけで片付けられない悲しさを感じさせる。
さらに戦争が生み出す苦しみのひとつとして、食糧不足から来る“餓え”も描かれる。
主人公のゲン一家も類に漏れずいつも空腹をかかえているのだが、そこに追い打ちをかけるのが、
反戦を唱える父親へのご近所から「非国民」とバッシング。
ただでさえ食べ物がないうえに米も麦も貸してもらえなくなり、
苦肉の策で「イナゴをやいてたべるとおいしいよ!」と、イナゴ採りに行くのだ。
警察に連行された父が久しぶりに家に戻ってくると、その日の夕食はどっさりのイナゴイナゴイナゴ!
皿の上に山盛りのイナゴ串、これがなかなか美味しそうで悪くない。
5~6本も食べるとかなりおなかいっぱい。
味はごく普通においしいので、「すまん」と謝らなくても大丈夫だよ、とうちゃん!
※このテキストは『TRASH-UP!!』 Vol.16で発表したものです。続きは本誌でお楽しみください