日本の近代化と未来を吐き出す
働きものの虫・蚕
日本で食べられていた蛾といえば、信州・伊那地方の「まゆこ」だ。
「まゆこ」は蚕蛾の大和煮(砂糖や醤油などで濃く味つけした煮物)で、現在でもネットで缶詰を購入することができる。
蚕蛾(かいこが)というとピンと来ないかもしれないが、その前身である「蚕」ならば、誰でも知っている虫だろう。
蚕は日本の近代化に貢献した虫でもあり、家畜として改良されているので飼育し易いのが特徴だ。
蚕から作られる絹織物は、明治の開国後、欧米諸国と台頭の立場を得るために殖産興業を推す必要があったことから、
資源の乏しい日本において重要な輸出品だった。
幕末、明治、大正、昭和初期まで、日本は外資の約半分を生糸とその加工品で稼いでいたという。
養蚕農家で繭の状態まで育てられた蚕は製糸工場に出荷され、そこで糸に加工されるのだが、
工場に勤める大勢の女工さんたちが、
絹を採った後に残る蛹をオヤツ代わりに食べてしまうので、配給制になった事もあるのだとか。
蚕の取り合いで喧嘩になったのだろうか?
「あんたさっきからパクパクパクパク食べすぎなのよ! だからブクブク太んのよ!」とかなんとか。
米太り、パン太りならぬ虫太り……なんてことにまではならなかっただろうが
“蚕で残業身代わり交渉”くらいのことはあったかもしれない。
まあ、それだけ普通に食べられていた虫だということです。
しかも結構高カロリー。楳図マンガの蛾弁当(前回その①ご参照)は
「午後もしっかり働けますように」というお姑さんの心遣いなのかもしれない。
え? 無理がある?
その③、調理&実食編へ続く。
【おかいこメモ】
養蚕農家は第二次大戦後の化学繊維の台頭により絹織物文化が廃れたことから激減してしまったが、蚕はインターフェロン開発などの新たな利用法も生み出されている。昨今の“蚕ビッグニュース”といえば、なんといっても「宇宙食に最適な虫」という話題。運搬、飼育のしやすさや栄養面などから、蚕は宇宙食にぴったりなのだという。日本の近代化から動物の治療、そしてスペース・フードにまでと、時代を紡ぐ虫なのだ。