虫食エッセイ

第3皿 未来のむしくい(食材:バッタ)

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マンガの神様が描いた”虫牧場”という未来

「虫が世界を救う」と言われているのはどうしてか。

それは近い未来、地球上の人口が増加することにより、食料危機が必ず訪れるという事が理由だ。

専門家の話によると食べ物の量そのものが足りなくなるというよりは
「供給バランス」や「栄養価」が問題となってくるそうで、
栄養面では特にたんぱく質が不足するようになるという。

そこで、現在活用されていない未知数な資源として、たんぱく質豊富な虫にスポットが当たっている。

ただし、供給量を安定させるには”養殖”技術が必要になってくるのは必須。

家畜としての飼育方法が既に確立されている蚕だけでなく、もっといろいろな虫を育てなくてはならないだろう。

そんな”虫を養殖する”ということを、45年もの昔に描いていたのが
マンガの神様・手塚治虫だ。

世代を超えて愛されている『ジャングル大帝』は、アフリカの大地で白ライオン・レオが王者として成長していく大河ドラマだ。

人間の世界で育ったレオが、ひょんなことから生まれ故郷のアフリカへ渡るのだが、そこで弱肉強食の世界を目にする。

ライオンが鹿を襲って肉を食らう。

そんな生命の自然な営みが、人間社会で育ったレオには残酷な光景として見えてしまい、なかなか受け入れられない。

それは子供らしい感情でほほえまし いのだが、そのあとが、すごい。

「生き物どうしが殺しあわない世界を作るにはどうすればいいの?」と考えたレオは「物々交換で食料を提供する」というシス テムのレストランを始める。さすが王者の子、行動力がハンパない。

リメイクされたアニメ版ではそこからさらに1歩進み、なんと「バッタ牧場」を作るのだ。

昭和の時代に手塚治虫が描いた世界に、現実のほうが少しづつ近づいているような気がして、ちょっと怖いものがある。

草が食べられない肉食動物は、お腹が空いたらバッタレストランへ行くのだろう。

ああいいなあ、バッタレストラン。串焼き、フライ? それともピザ仕立て?
付け合せはそうねえ、最近ビタミン不足だから青虫をいただこうかしら。なーんて。
目の前でシャーッと料理してくれる海鮮料理店のように、
その場でバッタを調理してくれるレストラン、一度ぜひ訪れてみたいものです。

動物が食べてるシーンにも “むしくい”のきっかけはうもれている!

今回のメインテーマ「憧れのマンガ(の虫)メシ」は、マンガで食べられている虫を食べる、という試みだ。

だから「”バッタを食べる”っていっても、レオたちは動物じゃないか」と思う人もいるかもしれない。

しかし、食いしん坊たちは擬人化された動物キャラが食べているものに興味を示すもの。

一昨年、「虫を食べたい!」という元気な女子高生たちと虫食い会を催したのだが、参加メンバーに”虫を食べようと思ったきっかけ”を聞いてみると、「ライオンキングで、ティンパが美味しそうに虫を食べていたのを見て、自分も食べたくなった!」と言う。
予想外の作品に、虫食いの目覚めが隠されているものだと驚いた。

見目麗しい虫食い女子高生

世界的なメジャー作品ライオンキングで虫食に目覚めてしまった高校生たちは皆、まるで”ハチクロ”(美大生たちの青春を描いた『ハチミツとクローバー』)を実写化したか のような、素直で育ちのよさそうな美男・美女ばかり。そんな彼女たちがキャッキャと無邪気にはしゃぎ、虫をわしづかみにしている。

“これが本当の森ガール……!”

何が何だかよく分からない衝撃を受けた。

話がそれるが、この虫食会を企画した3年生(※当時)のAちゃんは奇形が見たくて蝿をせっせとペットボトル で飼育したり(蝿を増やすと、一定数必ず出る)、つがいのマダガスカルゴキブリにリンリンとロンロンという名前をつけて愛でていたものの、お母さんに怒ら れ泣く泣くおなかに処理したりする、デインジャラスな行動力を持った美少女であった。

話を戻します。そうなのだ、可愛らしく擬人化された動物キャラが「おいしそうに食べる」という画は、

食いしん坊の興味を引くということなのだ。ただしごく一部だけど。

しかもバッタはそう珍しい虫ではなく、手軽に食べられる虫。 さあ、食べよう。『ジャングル大帝レオ』が好きな人は、今すぐバッタを食べてみよう。

1967年より『週刊少年サンデー』(小学館)で連載されていた『どろろ』にも、川べりでバッタの仲間であるキリギリスを食べるシーンがある。どろろがキリギリスをパッと手で捕まえ、焚火でジューッとあぶってムシャムシャ食べるのだ。さすが、虫を愛していた手塚先生。

バッタ類は美味しいということを ご存知だったのかもしれない。

ちなみに『どろろ』は2007年に妻夫木聡、柴崎コウというキャスティングで映画化されたが、制作時「この川べりのシーンではどんな虫を食べればい いのか」という問い合わせが、虫食いの師匠・内山昭一氏のもとに来たという。

師匠は”香り高く英気も養えるし、水生昆虫である”ということからタガメを 勧め、映画ではタガメを食べるシーンとなっている。

バッタで憧れのエビ食体験も!

注;自己責任でお願いします

レオが養殖を計画した「バッタ」は、日本の昆虫食の代表格・イナゴの仲間で、
エビとよく似た味がする。ところが、日本ではイナゴは食べてバッタは食べない。
イナゴとバッタの違いといえばノドの部分の形状くらいなのだが。

その理由はあくまで想像なのだが、イナゴの生息地にあるのかもしれない。
食用とされてきたコバネイナゴ、ハネナガイナゴは水田に棲むことから、
間接的に稲を食べているというイメージがあり、口にしやすいのだろう。

実際はイナゴを大量に捕獲すれば、バッタも混ざるだろうと思われるのだが、

田んぼで取れたものを「イナゴ」と大まかに総称しているのだろうという意見もあるようだ。

バッタを食べないもうひとつの理由は、単純にトノサマバッタなどは体が大きく羽や脚が食べにくいという事もあるかもしれない。

脚が柔らかい小ぶりな サイズのイナゴなら、脚や羽を取り除く手間をかけなくて食べられる。大量に捕まえて保存食にしたり、佃煮として販売するには、できるだけ下処理の少ない種 類のほうがいいのだろう。
でも、一般家庭で1~2回楽しみで食べる分には問題ない。こんなに美味しい虫を食べないなんて、もったいない!

川原に棲むトノサマバッタは、身が大きく食べ応えがあるうえ
飛ぶ力がとても強いので、捕まえる時に”狩り”の雰囲気が味わえるのも魅力だ。

草が生い茂る間をぬって、低空飛行で弾丸のようにバーーーッと飛んで逃げる。

飛んでいるバッタはまず捕まえられないので、地面に着地したところを狙うといい。
とは言っても、実際にいざ捕まえるとなると、思っていた以上の飛行力に思わず戸惑う。
秋に「バッタ会」なるものがあり、虫捕り網を持っておろおろしていたら、
「水辺に追い込むんですよ!」とオシャレ大学生が教えてくれた。

ハエの奇形を観察する虫食い女子高生Aちゃんといい、
ねえみんな、そういう知識どこで覚えるの?

さて、捕まえたらいよいよ調理だ。

バッタは油に放つとパッと赤くなり、味はほとんど”エビ”。軽く塩をふるだけで、美味しく食べられる。

ぷりぷりのトノサマバッタもうま味があって味わい深いが、チキチキと鳴く頭の尖ったショウリョウバッタも、パリッと香ばしくとても美味しい。

(左)ショウリョウバッタ (右)トノサマバッタ

このバッタ会には、昆虫料理研究会のメンバー・Sさんがお子さんを連れてきていた。
Sさんのお子さんは軽度のエビ・カニアレルギーを持っているのだが、

皆が口々に”美味しい!”と絶賛するエビを一度食べてみたいと思っていたそうだ。そこ で、Sさんは「だったらバッタを食べてみたらいい」とバッタ会につれてきたのだった。虫食いの父を持つと、世界が広がるなあ。
しかし、昆虫の羽根や外骨格にはキチン質が含まれるから、エビ・カニアレルギーを持っているならダメなのでは? と思ったのだが、そこはさすが長年我が子の体調を見てきたお父さんの判断、なんともなかったようだ。
注:個人差がありますので、くれぐれもマネしないでください

Sさん「ほーら、これがエビの味だよ」
子ども「わーい!(バッタを頭からボリボリ)」

後日、酒の席でそんな話をすると、先輩に「話つくんなよ」とバッサリ。
失礼な。私がわざわざそんないい話をするわけないじゃないですか。

次世代の虫食い伝道師となるか!?2009年のバッタ会にて。

そうして皆で集めた数種類のバッタを河川敷で素揚げにしていると、
バッタの味を気に入ったらしい子どもたちから「次はショウリョウバッタお願いしまーす」と、次々注文が飛んでくる。

虫をシャーッと揚げて、パラッと塩をまぶし「へい! おまち!」

「揚げたて、おいしいね!(ポリポリ)」

コレは一体なんのおままごとだ? そして自分は天ぷら職人かっての。
あー、コレがレオのバッタレストランなのかもしれない。

【バッタ 調理メモ】
★イナゴ同様、脚の”ぎざぎざ部分”を切り落とすと、口当たりがよくなります。
★エビ・カニアレルギーがある方は、ご注意ください。

熱した鍋に放つと、赤くなるバッタ

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この記事を書いた人
ムシモアゼルギリコ

フリーライター歴20年(※虫関連の記事以外、基本は別名義)。
2008年頃から昆虫料理研究会(内山昭一主催)に参加し、“虫食いライター”としての活動を始める。
TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めているほか、映画やバラエティ番組などに登場する“虫食いシーン”の、調理サポート等も行う。

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