今年の2月のはじめ頃、長野県伊那市に行ったときの思い出を書きたい。
長野県と言えば、今では日本有数の昆虫食文化が残る里の代名詞的エリア。
ことに伊那市は、昆虫食のメッカのような、どこかスペシャルなイメージをずーっと心のどこかに抱き続けていたので、一度足を運んでみたかった場所だった。
現地に着いて伊那市のスーパー、土産店を巡ると、イナゴ、蜂の子、カイコさなぎ、ざざむしなどの食用昆虫の佃煮がほとんどの店で並んでいる。すげぇ。
そんな今もなお食虫文化が根付く昆虫食天国、伊那市。
今回この地で、独自の伝統文化の「ざざ虫漁」に触れることに。
ざざ虫漁のおもしろさ
いざ漁の前に、ざざ虫研究家の牧田豊さんの講演を聞き、古くから伊那市に根付くざざ虫食文化の歴史を知る。
そもそもざざ虫という単語そのものを、聞きなれない方も多いような気がするから、簡単に説明したい。
ざざ虫というのは、1つの特定の虫を指しているワードではなく、天竜川の清流に住む水生昆虫の総称で、ヒゲナガカワトビケラ(別名 青虫)、カワゲラ(別名 ザザ虫、チョロ)、ヘビトンボ(別名 孫太郎虫、川ムカデ)等の幼虫が代表的なざざ虫。
ザーザーと流れるところにいる虫ということが語源とも言われている。
ざざ虫漁をするには許可申請が必要で、誰しもがむやみやたらに業者的な漁を行っていいものではないので注意しよう。(個人の嗜好の範囲で少量を取って楽しむのはOK。)
天竜川上流漁業協同組合の漁師さんは、虫踏許可証の取得が必要になってくる。漁期は冬の12月から2月末まで3ヶ月間。(冬場はざざ虫が捕食しないので、体内に消化物もなく美味しいのだそうだ。)かつて盛んに行われていたこのざざ虫漁も、今となっては後継者が少なく、現在漁師さんが10人ほどしかいないそうな。
私は免許を持っていないから、ざざむし漁師さんの漁に同行させていただく。
このざざ虫を取るためには、まず鍬(くわ)で石を次々と裏返していき、かんじきという鉄製の道具を靴にはめて石を踏むと、石の裏にくっついているざざ虫が流されて4つ手網の中に溜まっていくという仕組み。
別名「虫踏」と言われる由縁は、この独自の足で踏む漁のスタイルがルーツとなっているそう。
四つ手網に溜まったざざ虫は、最終的に金網が何層も重なった選別器に入れて、ゴミは上の層にたまり、下の方に行こうとするざざ虫の習性を利用して、それぞれのざざ虫(トビケラ、カワゲラ、ヘビトンボ)が分離していくしくみ。
だいたい1時間くらいしたところで、さすがに1キロはいかなかっただろうが、それでも結構な量のざざ虫がとれた。
内訳は、その7割ほどはヒゲナガカワトビケラ幼虫が占める。
残りは2割くらいがカワゲラ幼虫、あと1割がヘビトンボ幼虫といった具合。
ざざ虫ってどんな味?
漁師の中村さん宅に行き、茹でたざざ虫を、酢醤油で食べる。
いざ実食。
ヒゲナガカワトビケラは、藻を食している影響からなのか、どことなく磯の生き物のような香りがする。食感はプリッとしているような、幼虫らしいソフトな感じ。
カワゲラは、食感、味とともに一番エビに近い。歯ごたえが一番良いのがカワゲラ。
ヘビトンボは、どこかウニっぽい濃厚な旨味を感じた。一番サイズが大きくて食べ応えも抜群。かつて孫太郎虫と呼ばれたヘビトンボ幼虫は、串焼きにして疳の虫(子どもの夜泣き)に効く民間薬として重宝された。泣く子も黙るヘビトンボ。
旨味の強さを個人的な感覚で表すと、
ヘビトンボ>ヒゲナガカワトビケラ>カワゲラ
ヘビトンボが一番旨味が強かった。
また、食感の良さを表すならば、
カワゲラ>ヘビトンボ>ヒゲナガカワトビケラ
ザザムシ漁、楽しかったな〜。満足。
すでに味付けされた甘辛い佃煮の状態では味わえない、昆虫が本来持つ味を味わうことができた。
捕まえて食べるという行為は、ジビエなどで狩猟して食べるように狩猟本能が満たされるような感覚がある。
私が昆虫食の世界を楽しく感じられているのは、たぶんその感性のおかげだ。これに限って飽きるという感覚がない。採集は純粋に楽しい。
そういうフヘン的な楽しさがあってこそ続いてきたざざむし漁文化であると思う。