虫食エッセイ

第12皿 蝉食いトラウマンガ

季節柄、蝉のお知らせばかりが続きますが、
トラッシュカルチャーを追及する雑誌『TRASH-UP!!』にて連載させていただいている
「このマンガ(の蟲)メシが食べたい!」の最新回も、蝉。

主に怪奇マンガに登場するむしくいシーンを検証するという連載で、
今回取り上げたのは有名トラウマンガ『蝉を食べた少年』。

これは我々が毎年心底楽しみにしている「セミ食」を、トラウマ発症レベルにまで恐ろしく描写した世紀の問題作!!
「このマンガのせいでセミが食べられなくなった」と言っても、誰も困ってないみたいですけど!!

一昨年の虫食いフェスティバルでも実写版を作ってご紹介させていただいたものの、
まだ一度も原稿にしていなかったことと、実にTRASH-UP!!的な漫画であることよ…!と常々思っていたので
改めてこの連載で使わせていただいた次第です。

表紙
『恐怖体験3大百科』(ケイブンシャ)に収録の『蝉を食べた少年』(桑原京助)

(以下、原稿一部転載)

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「蝉は美味しい」そう言うと、「猫じゃあるまいし」なんて返される。

そうそう、猫がよくウニャウニャくわえてきて食べているのは、美味しい証拠なんである。
ホントに不味けりゃ猫も食わん……というのはさておきで、
「子どものころ、蝉を食べる漫画を読んでトラウマになった」という話しが、チラホラ出てくるのだ。

その蝉食いマンガは一時期ネット上で“幻のトラウマンガ”(トラウマを植えつけられたマンガのことを、通称“トラウマンガ”と呼ぶ)として話題に上っていた有名作品。しかも蝉を口に詰め込まれたり、夕食に出たエビで蝉食いを思い出してゲーゲー吐いたりなどのシーンを鮮烈に覚えているものの、出典がはっきりしないという共通点があった。

作品のタイトルは『蝉を食べた少年』。物語のあらすじは、こうだ。

虫好き少年のアキラくんが、粗暴ないじめっこに蝉を無理やり食べさせられたらセミ人間(特撮モノの怪人的な姿を思い浮かべていただければ)になってしまい、虫パワーでいじめっこに復讐しておしまい。

実に単純なのだが、絵がとにかく暗くて不気味で小汚く(いちおう褒め言葉)、西岸良平に日野日出志のエッセンスを振りかけた悪夢のようなタッチであったので、恐ろしいほどのインパクトを放ったのだろう。

この作品は、70~80年代に人気を博した、ケイブンシャの大百科シリーズのひとつ『恐怖体験3 大百科(288)』(1987年発行)に収録された短編である。大百科シリーズはスポーツ、特撮、ホラー、アニメなどジャンルも発行数も多く、収録されている記事の情報が少ないためどこに何が掲載されていたかを探すのは難しい。そのため『蝉を食べた少年』についての誤情報は多数飛び交い、単行本化もされていないことから作者もはっきりしない状態が長年続いていた。絶版マンガに明るい古書店・まんだらけ中野店マニア館のスタッフすらもHPにこんなぼやきを書いている。

――その噂の数とは対照的にまったく出てこない『本物』に一時期、出来る限りのケイブンシャの大百科をチェックし、この作品の真相を追い続けていた担当も、「ケイブンシャじゃないんじゃね?」や「そもそもそんな作品ないんじゃね?」と黄昏ていました

最終的には2012年にその筋のマニアによって発掘され、自分もその情報によってやっと入手できたものだった。

ちなみに小学生当時読んだという知人たちは、小学校の学級文庫や歯医者の待合室に置いてあったので何となく手にとり……という“うっかり読み”が多かったよう。怖い話しを好き好んで楽しんでいたのならトラウマも自業自得かもしれないが、うっかり手にしたとは適当に配られたおやつが自分のだけ腐っていた、みたいな運の悪さである。しかも日本に暮らす以上は毎夏嫌でも目にする、蝉!

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続きは蝉の美味しさをひたすら語っているので、むしくいマニアな皆様には耳にたこかもしれません。

気になる方はぜひ『TRASH-UP!!』Vol.19をチェックしてくださいませ。

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今回の「90年代トラッシュ・ムービーガイド」は、紹介されているものをしらみつぶしに観る合宿をしたくなるラインナップ。虫映画が1本も無かったのがちと残念だけど。

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この記事を書いた人
ムシモアゼルギリコ

フリーライター歴20年(※虫関連の記事以外、基本は別名義)。
2008年頃から昆虫料理研究会(内山昭一主催)に参加し、“虫食いライター”としての活動を始める。
TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めているほか、映画やバラエティ番組などに登場する“虫食いシーン”の、調理サポート等も行う。

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