■著者:木谷美咲
■発行:2014年
■発売:水曜社
■虫:蝉、ゴキブリ
有名なSM官能小説のタイトルでもある「私の奴隷になりなさい」とは男女の関係性を提示する作中の台詞だが、
そういった人間同士の話からは遠く離れ、
一方通行的に愛で! 尽くし! 振り回され! 喜びを感じてしまったエッセイが『私、食虫植物の奴隷です』だ。
作者が食虫植物に出会い、のめりこみ、そして食うまでの経緯を記録したエッセイ。
ある意味、奴隷の反乱。
なぜこのサイトでこの本を? と思う方にご説明させていただくと、作者の木谷さんは「むしくい仲間」で、
このエッセイ本には過去に一緒に開催した“食虫植物×昆虫食”イベントの話が掲載されている。
それは某所で木谷さんと出会い
「食虫植物かあ。虫を食べる植物なら、食虫愛好家と似たようなもの? 仲間仲間!」という単純な発想で、
イベントへお誘いしたことが発端だった。
「一般的に食べて大丈夫なのか?」ということはよく考えずに
「むしくい」という共通点だけで球を投げる自分もどうかしているが、
飛んで来た球を全力で受け止める木谷さんもどうかしているかもしれない。
ちなみに木谷さんは今年、昆虫料理研究の第1人者内山昭一さんと共著にて昆虫食のレシピ本も出している。
その飽くなき探究心、夜光虫のように美しく眩しい!
この本に収録されているのは、2010年に大久保のブックカフェ・オメガ(現在閉店)で行われた「寄食の宴」と、
その翌年に下北沢で開催した「蝉酒場」。
どちらもいまだによく覚えているが、今回のエッセイで「あの時そんなことを考えていたのか!」なんて発見もありとても楽しい。木谷さん目線での出来事を再確認したことで、さらに濃厚な思い出へとランクアップ。
もし本当に走馬灯なるものがあるのなら、このイベントの光景は必ず見られるような気がしてくる。
白目で死にかけながら
「ああ、ウツボカズラの爽やかな苦みよ…! アブラゼミの甘みが…!」とつぶやいていたら怖いけど。
中はオールカラーだし、作中の登場人物が似顔絵で登場する。豪華だ。
余談だが、先日対談仕事の帰りに書店に寄ったらこんな棚を見つけた。
店内の目立つポジションに「夏だ! レジャーだ!」といった風情のアウトドア系の本がずらりと並び、
その横に自然×食のテーで集めたような棚が設置されていたのだ。
『私、食虫植物の奴隷です』とともに、内山昭一さんの『昆虫食入門』、拙著の『むしくいノート』も並んでいて、
この棚だけすごい“ご近所感”濃厚(当社比)。