■著者:小川幸辰
■発売:エンターブレイン(全3巻)
■発行:2008年
■虫:進化したSF虫
現代版ナウシカが遭遇する
虫たちのスプラッタ行脚
「虫好き」という人種は特に珍しくないが、古典『虫愛ずる姫君』でも書かれているように、
若い女子が「虫可愛い!」というのは世間的に“変わっている”となってしまうようだ。
『エンブリヲ』の主人公・衿子もいわゆる虫愛ずる姫君で、
生きとし生けるもの全てに愛情をそそいでしまう、ちょっとエキセントリックな女子高生だ。
ある日衿子が謎の虫に刺されるが、実はその虫は、汚染された環境の中で生き残るために進化して、
人間の脊椎で胎児を育てようとする試みを行っていたのだった。
そしてそんな虫に胎児を植えつけられてしまったヒロインが、虫と人間との間を走り回る。
・・・・・・と、カンタンに説明してしまえばただのSFファンタジーなのだが、この虫たちが、いちいちスプラッタな仕事をしてくださるので、
一気にホラー色に染まるのが素晴らしい。
青き衣なヒロインは虫たちに常に守られていて、アブない図書室の司書にレイプされそうになれば、進化虫が天井からボトボト降ってきて、犯人をぐっちゃぐちゃに食べつくして圧勝。
ちなみに私は最近あおむしを飼っているのだが、たっぷりあげた菜っ葉を1日であっという間に食べつくす食欲を目の前にすると、
フランクフルト大サイズの虫が大群で襲い掛かれば、確かに人ひとりくらいあっという間に食べつくすなあ・・・と妙に納得させられた。
そして食欲旺盛な進化虫は大量の幼虫を育てるにはどうしたらいいのかしら? と、発達した頭脳で考え始め、エサ確保のため人間牧場(!)を作ってみたり、何がしたかったのかはよく分からないが、死体にみっちりつまってリビングデット状態で動かしてみたりと、全3巻これでもかと暴れまわる。
全編グロテスクな描写の連続で、ホラーファンとしては読んでいて思わず満面の笑みになってしまうが、
ラストでヒロインが選択する元祖・青き衣の者を超えた“虫愛で度”が、何よりもある意味ホラーかもしれない。
それが何かはご自身の目でご確認を。スプラッタシーンの派手さだけではなく、
あらゆるベクトルで「うひゃあ!」とさせてくれる良作ですから。
タイトルの「エンブリヲ」とは、多細胞生物のごく初期の段階のことだが、
これから読む人は、ぜひエンブリヲの意味するものを探しながら読んでみてほしい。