■著者:御茶漬海苔
■収録『暗黒辞典Ⅱ』
■発行:ぶんか社
■発売:1997年
■虫:ゴキブリ、蝶、その他
虫食いたちよ、ご注意あれ
虫による虫のための虫復讐劇
『吸血蛾人』『恐怖! 呪いの鍾乳洞』『毒虫小僧』と“変身系”が続いたので、お次は“いくらなんでも愛ですぎ系”をご紹介したい。
そんなジャンルはもちろん無い。勝手にそう呼んでいるだけです。
「一寸の虫にも五部の魂」なんて諺があることからも、虫がいかに小さく儚いかが分るが、さらに人間とはかけはなれた存在であることが
罪悪感を薄めてしまい、「壊したい!」「ふみつぶしたい!」という衝動をあおるのだろうか。
遊びで虫を殺す。
子供時代を振り返れば、誰でもそんなことの1つや2つ、身に覚えはあるのでは。
はい? 私ですか? ええ、ありますとも。
蟻の巣に水を流し込んで「水攻め」。巣穴に爆竹を詰め込んで「爆撃」。
ええ、やりましたやりました。
ホラーマンガの“雑魚キャラ”というものは、総じて「真っ先に殺されますフラグ」を自ら立てるかのごとく愚かなふるまいをするものだが、『蟲男爵』に登場する女子たちも、そりゃあ酷いもの。
ゴキブリホイホイはともかくとして、
ご丁寧に足で踏みつけ「ハハハ、ざまーみろゴキブリめ!」ぐちゃぐちゃ。
蝶を捕まえれば「まあ暴れちゃって。きっとすごく怖いのねフフフフ」ブチッ。
同級生に咎められれば「あーら虫なんて人間に殺されるために生きているのよ」
と、のたまう。御茶漬海苔マンガは加害者が1mmのブレも見せず歪みきっているのがちょっとすがすがしかったりもするのだが。
さて、そんな人間たちの前に「蟲さんの苦しみを味わえ!」と登場する復讐鬼が、虫の化身のような謎の男・虫男爵なのだ。
「羽をもがれた蝶さんの苦しみを味わえ!」
と、虫に意地悪をした女子高生たちをザクザクッ、ギャア! ザクザクッ、ギャアア!! と切り刻む。
ゴキブリ殺し(命名By蟲男爵)は裸で拘束し、全身にゴキブリを這い回らせる(ほとんどエロ?)という責め苦を与え
「おまえにはゴキブリ君の気持ちがわからんのか!」とたたみかける。
物語冒頭で少女が言う。
「虫を殺すと蟲男爵が現れるんだよ!」
そんな御茶風味の蟲都市伝説でございます。
洋館の壁一面に女子高生たちをピン刺しするというえげつない蟲男爵だが、「蝶さん」と丁寧に語りかけたり、
ゴキブリが息絶えれば「うおおおおおおゴキブリくーーーん!」と絶叫して悲しむ妙なピュアさが、どこか憎めない。
ちなみに私が虫を採るのは「食べるため」という至極まっとうな理由ですので、蟲男爵のターゲットにはなりませんよね、御茶先生!
ああ、でも溺死か爆死だったら、いつかの蟻の復讐か。
※『蟲男爵』は作者本人がメガホンをとり、映画化された。DVD『御茶漬け海苔の惨劇館』をチェック! ちなみに「ゴキブリ君」は、マダガスカルゴキブリたちが好演。