虫食エッセイ

第4皿「祟りの虫弁当」(食材:青虫)

“虫のたたり”で

来る日も来る日も踊り食い!


「ごらんよ、僕の弁当は…青虫さ!」

この台詞が大好きだ。気持悪さをしっかりアピールしつつも、昭和を感じさせる台詞回しが笑いを誘うから。

もし“声に出して読みたい日本語”を選べといわれたら、誰がなんと言おうと断然この台詞。

ごらんよ、僕の弁当は青虫さ! いじめられっこが“俺のターン!”的に繰り出す、鼻息の荒さがグッとくる。

さて、どうして“青虫”が“弁当”なのか。

こんなハイテンションな台詞が飛び出すのは、『恐怖新聞』で知られるつのだじろうのオムニバス短編集『亡霊学級』の第2話「虫」。

毎日毎日青虫弁当を持参しているのは、2年A組のいじめられっこ青野君。

彼は青虫がだあい好きで弁当にしているわけではなく、「虫のたたり」で青虫を食べ続けなくてはならなくなってしまったのだ。

青野君はホラーマンガの主人公にふさわしい典型的ないじめられっこで、もっそりした容姿&性格から、ついたあだ名は「青虫」。

そんなストレスフルな日常を解消すべく、虫をちぎったり、ナイフで切ったりするという幼稚な虫虐待でリフレッシュしている。

今日も青野君は気味の悪いリフレッシュに励んでいる。すると突然謎のおばあちゃんが出現(お約束です)、そして青野君に高らかに告げる。

「虫をいじめると“虫のたたり”ってものがあるんだよ!」

虫のたたり! 該当者がものすごく多そうで、虫も過労死しそうだ。って、既に死んでるのか。

このたたりがですねえ……結構、いや、かなりのえげつなさ! はじめは
「青虫が入っていたんだ!! パンの中に!」

どうやって入りこんだかと聞くのは野暮。心霊現象なの!
翌日は

「おかずのジャガイモの煮たやつの中に 毒虫がいたんだ!!」

まあ、私なら余裕ですね。

そして「つぎの日…またつぎの日も…ぼくの給食にだけ青虫が入っていたんだ」ねえ、それいじめなんじゃない? そしてついに家のごはんにも青虫がまざりはじめ、つまり、“青野君が口にするもの”は全部全部ぜーーんぶ! 青虫になっちゃうという生き地獄状態になるのだ。
ところが、凄いのはたたりじゃなくて青野君。そこで発狂したり食べられなくなって衰弱したりするのがノーマルな反応だと思うのだが、意外な順応力を発揮して「人間食べなきゃ死んでしまうしな…!」と、“青虫責め”を受け入れ、毎日毎日青虫を踊り食いする。

強いぞ、青野君。

そんなわけで青野君は、今日もフレッシュな青虫弁当を食べている。

青野君はもっさりしつつも意外と気遣いのできる男子で、無関係な人に虫の姿は見えないにも関わらず、教室内では一応隠して食べている。するとお約束のようにいじめっこが「弁当見せろよ!」とからむのだ。

そして校舎の裏で弁当を公開するシーンが、冒頭の台詞。

驚いてビビリまくるいじめっ子に青野君は解説する。

「食べなれてみるとあんがいうまいものだよ!」

そうなのか? 青虫の味? もちろん食べてみなくちゃ分らない。

“たたりの青虫”は何の幼虫なのか

「青虫」は毛虫と同様、蝶と蛾の幼虫の総称で種類はたくさんある。

パンの中からひょっこりこんにちは状態になっている青虫を見ると、ぽってりしたシルエットと背中に走る模様から、アゲハの幼虫だろう。

でも困った。アゲハの幼虫ってどこで手に入るの?

都心で生活している自分は、そうそうアゲハの幼虫に出会わないし、昆虫ショップでもヤフオクでも売ってない。出張先で畑に入らせてもらったり、実家が農家だという知人に問い合わせてみたりして探し回ったが、青虫はどこにもいなかった。

あー、もうこのまま秋になっちゃうのか……と諦めかけたある日、ツイッターの書き込みから虫食い仲間の家にアゲハの幼虫がいることを知った。あんなに探していると話したというのに。黙っていたわね、あの野郎。早速「幼虫ください!」と頼み込むと一度はサックリ断られたが、青虫弁当の魅力をしつこく語ると“そういう事なら(どういう事?)”と、ゆずってくれた。

これでやっと青虫弁当が食べられる! 祟られるかもしれないけど。

そうこうして「蛹にならないうちに」と大至急運ばれた青虫は、ボディはまん丸のパツパツ、カラーは目に鮮やかな緑色だ。

虫食い仲間の家でレモンの葉をたらふく食べていたという。体毛がなくぽってりとしたフォルムのアゲハの幼虫は、イモムシの中でもかなりキュートな部類だと思う。こんなに可愛い子が祟るとも思えない。


こちらが、レモンの木についていたアゲハの幼虫。

移動用の容器へ一緒に入れられたレモンの葉をシャクシャク美味しそうに食べる姿をずっと見ていたい気がしなくもないが、あくまで虫は食材、そしてあなたは今日のお弁当のおかず。さっさと弁当箱に収まっていただくことにする。

レッツ青虫クッキング! 結構怖い蒸し青虫

青野君の青虫弁当は「生きた青虫」なのだが、虫の生食いは「虫フードファイターと呼ばれる芸人・佐々木孫悟空さんにお任せすることにして、自分はあくまで「調理」をして食べる。
青虫を調理する前に、なんとなく弁当箱につめた白米の上に置いてみる。するとご飯の温度が不快なのか、すごい勢いでムニムニと逃げ出そうとする。こうやって生き物をいじりまわすのも“たたりフラグ”が立つ一因なのかもしれない。貴重な一匹をそんな風に眺めていたらお湯が沸いたので、網をセットして青虫を置き、素早く蓋をした。

虫の色や形を極力残したいならば、食材の形が崩れにくい“蒸し”が最適だ。

逆に姿形をマイルドにしたい人は、衣をつけて揚げたり、ペースト状にして食べるのがオススメです。

蓋のすき間からシュンシュン音をたてて蒸気を吹き出している鍋を見守り5分経過、そっと鍋の蓋を開けると……。


こ、怖い!
“オレンジ色の角”がにゅーーーーんと出てる!

このオレンジ色の角は「臭角」で、相手を威嚇するためにくさいニオイを出すことができる機能が搭載されている。つまりすっごく怒ってるってことですね。

ウラミハラサデオクベキカ! だ。おお、怖。

生きているときは分らなかったが、蒸してみると作者のつのだじろうが“虫が祟る”という発想に至った理由が分ったような分らないような。“噛みつく”などの分かりやすい攻撃と違い、ニオイ&視覚は心理的なダメージが結構大きい。

1匹だからまだこの程度だが、オレンジ色の臭角を出している青虫がびっっっしりつまっていたら、さすがに叫びだしそうだ。
まあとにかく、蒸したらそれはもう“おかず”。蒸し青虫を弁当の中央にセットして、やっと「祟りの弁当」一丁あがりである。


物語ラスト、「虫のたたりだなんて…ばかばかしい!」と鼻で笑ういじめっ子の弁当にも青虫が…! というシーンを再現。

いただきます! うらめしそうな青虫は 爽やかなレモンフレーバー

青野君のように何匹も口につめこみモリモリ食べられないのが少し残念だが、とにかくいただきます!

まずは青虫だけをそっ~とかじってみる。

青野君は「プチュッとはじけて口の中に何ともいえないいや~な生臭さがあって…」と言うが、ぷちゅっとはいかない。蒸したから? 皮が結構しっかりしているので、プチュッというよりは、ブツッと噛み切る感じだった。すると色鮮やかなボディのイメージそのまんまに、爽やかなレモンの香りが口の中いっぱいに! まるでハーブでも食べているかのよう。

全てがそうとは限らないのだが、その虫が何を食べているかが味を左右する事が多くあり、レモンや山椒、ユズの木などを好むアゲハの幼虫は、柑橘系の香りがするというわけだ。


レモンフレーバーな青虫は、和食よりもエスニック料理とのほうが断然相性がよさそうな風味だった。米にあわせるなら、ササニシキよりもジャスミンライスだ。そこで残りの半分は、卵焼きと一緒に食べてみた。すると平凡な卵焼きが、“レモン風味の玉子焼き”というオシャレおかずに! ちょっとカフェメシっぽい。これは、女子が好きな味に違いない。ちなみに青虫の提供者は、蒸し青虫をヨーグルトに散らして食べたと言っていたが、なるほどそれは美味しかっただろう。

少女漫画の乙女たちは、バラの花びらを紅茶に浮かべたり、パイに花を散らしたり、花を煎じて惚れ薬を作ったり…とロマンチックな演出をするものだが、実際は花を食べても苦いだけ。彼女たちには“青虫かじったほうがはるかに乙女気分が高まる”ということを、教えてさし上げたい。

「ファーストキッスはレモン味」なんて昭和の少女漫画的表現があるが、そんな甘酸っぱい気分を味わいたい時には、ぜひアゲハの幼虫を。

レモンフレーバーの青虫をかじり、うらめしそうな臭角に祟りを感じるか、初恋の思い出に包まれるかはあなた次第!?

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この記事を書いた人
ムシモアゼルギリコ

フリーライター歴20年(※虫関連の記事以外、基本は別名義)。
2008年頃から昆虫料理研究会(内山昭一主催)に参加し、“虫食いライター”としての活動を始める。
TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めているほか、映画やバラエティ番組などに登場する“虫食いシーン”の、調理サポート等も行う。

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