■著者:松森ナヲヤ
■発行:1997年
■発売:小学館
■虫:ゴキブリ
変身の呪文は「粘着!」
”あの虫”数百匹を全身に張り付け、ぼくの地球を守る少年
少年&少女マンガの王道といえば、「ヒーローに変身して地球を救います!」
コレを何がどう間違ったのか、“あの虫”でやっちゃったのが『天然戦士G』(松森ナヲヤ)である。
主人公は平凡な少年。そしてある日突然「地球の戦士」に選ばれる。
誰もが知っている戦隊ヒーローの典型的なオープニングだが、
何によって選ばれたのかというところが、まずはオリジナリティの見せ所でございます。
さて、地球防衛軍にでしょうか? 宿命によってでしょうか? いいえ、ゴキブリです。
ある日主人公は、ゴキブリホイホイにひっかかっていた金色のゴキブリを物珍しさから逃がしてあげる。
するとその金色ゴキブリは、地球に危機が訪れる時に現れるという「ゴキヴリ・オブ・ゴールド」だったのだ(ところで「ゴキヴリ・オブ・ゴールド」って栄養ドリンクみたいな名前ですよね)。
ゴキヴリ・オブ・ゴールドは言う。
太古の昔から生き延びてきたゴキブリの生命力と、地球上で最も繁栄している生物・人間が手を組んで、地球の危機に立ち向かうべきだ! と。
へえ~、と一瞬納得しそうになってしまうのが怖い。
いや、いいんですけどね、雑食同士手を組んでも。しかし、どうやって手を組むのが問題なのだ。
変身ヒーローといえば、力を借りた生物のモチーフを取り入れた姿に変身するのがお約束だが、ゴキヴリマンは「粘着!」と主人公が叫ぶことで、ゴキヴリ・オブ・ゴールドの指令が発動し、路地から排水溝からゴミ箱からどこからともなく、周辺のゴキブリがぞろぞろぞろぞろ集まってきて主人公の体を覆いつくし外骨格を形成し、「ゴキヴリマン」に変身するのだ。なんとショッキングな変身方法!
自分はゴキブリの味も姿も嫌いではないが、全身をゴキブリに覆われて命をかけて戦うのは遠慮しておきたい。
「地球にやさしい天然の戦士」と謳っているが、戦士の精神にはあまり優しくない。ヒーローマンガ史上、最もおぞましい救世主なのでは。
※巨大蟲の体液で真っ青に染まった服を嬉しそうにまとう救世主・蟲姫様も、正直相当アレだと思うけど。
池上遼一版スパイダーマンや仮面ライダーも大変な孤独と苦悩を背負っていたようだが、ゴキヴリマンも、相当苦労の多いヒーローだ。
人の命を救っても「気持ち悪い!」と軽蔑され続けるのだから。
憧れのクラスメートに罵倒された主人公は「俺はゴキヴリマン・・湿気と生ごみ…冷蔵庫の裏が良く似合う…」と涙する。
苦悩が庶民的すぎて、笑え…いやいや、非常に身近で具体的で、より痛々しいですね!
人間がいかに偏見に満ち溢れているかという事の分かる、とてもよいマンガです。
『天然戦士G』は全3巻。
初めは軽~いギャグテイストのバトルなのだが、話が進むにつれ敵の凶悪さがレベルアップ、そしてクライマックスは“誰が一番強いか公開試合で決めましょう”というヒーローNo.1決定戦が開催される。そこに悪の怪人が紛れて、いよいよ地球の危機が目前に…!! あれ、コレ、聞いたことのある話ですよねえ。
少年漫画の金字塔『ドラゴンボール』や『キン肉マン』ではないですか。
だから自分はこの漫画を説明するときに「早い話がドラゴンボールのゴキブリバージョンです」と説明させていただいているのだが、たいていは「分かんねーよ」と怒られます。だって、物語ラストで、ゴキヴリマンもスーパーサイヤ人のように変身するし・・・ねえ? ちなみにその奇天烈な変身姿には「コ…コイツハ…イッタイ…!?」と、呆気にとられる敵怪人の心情と、思わずシンクロするハズ。
敵か? 主人公か? 一体どちらの目線で読めばいいのか、心を揺さぶられまくる『天然戦士G』。
ゴキブリに対して何か思うところのある方は、ぜひご一読を。
※『ゴキブリマン』・・・じゃなくて『天然戦士G』はこちらで無料配信されているようです↓
http://www.j-comi.jp/book/comic/3541